コラム
【第6回】“遊び心”がユースの心をひらく。評価のない場所で、ユースが自分を表現できるLOVEプログラムの魅力

「1日の中でほっと一息つける空間」
とあるモントリオールの高校で、22週間のLOVEのプログラムが終わった際、評価アンケートに記載されていたユースからのフィードバックで印象に残っている感想です。
学校でも家でもない場所で、だれかに評価されることもなく、自分の気持ちをそのまま表現できる安全な空間と時間。このフィードバックを見て、それがLOVEのプログラムがユースに届けているものだと、改めて実感した瞬間でした。
LOVEのプログラムでは、試験も成績もありません。先生や学校カウンセラーに気を使うこともないし、「ちゃんとしなきゃ」というプレッシャーもありません。話したくなければ話さなくていいし、書いたり、写真を撮ったりしながら、“自分のペース”で自分の気持ちに触れることができます。
そして何より、ワークショップを通して「自分だけじゃないんだ」と感じられること。周りの仲間やコーディネーターも、実は似たような経験や悩みを抱えていたことを知ったとき、ユースは少しずつ心を開いているのだと思います。
コーディネーターの“遊び心”が、心をゆるめる

LOVEのコーディネーターたちは、ユースと“先生”でも“セラピスト”でもない関係をつくります。距離感はフラット。でも、ちゃんと信頼できる。まるで“ちょっと頼れる近所のお兄さん・お姉さん”のような存在です。
ユースたちの気持ちを常に尊重し、遊び心のあるアプローチを心がけています。ゲームみたいなアクティビティやアート制作、自由に書く時間など、活動そのものが“楽しい”から、ユースたちは気づいたら夢中になっていて、気づいたら「気持ちを話していた」「誰かとつながっていた」と実感できる瞬間があります。
もちろん、コーディネーターたちもユースと一緒にワークショップを楽しみます。彼ら自身が楽しんでいる姿を見ることで、ユースも安心してのびのびと参加できる空間が出来上がっているのです。
またLOVEのコーディネーターたちと働き始めて、とても印象的で素敵だと感じたことの一つに、彼らが一人ひとりの「できたこと」や「参加してくれたこと」にしっかり感謝を伝える姿勢です。強みを引き出し、ありのままを受け止めてくれる存在がいるだけで、「このままの自分で良いんだ」とユースが思えるきっかけになっているのではないかと思います。
楽しいだけじゃない!“メンタルヘルス・プロモーション”になっている
メンタルヘルス・プロモーションとは、
一人ひとりの心の健康を維持・向上させる機会を提供し、精神的な不調を未然に防ぐためのアプローチです。
そしてもうひとつ大切なのは、「安心して過ごせる場所」をつくること。
そこでは、誰もが尊重され、つながりを感じ、必要なときにサポートへアクセスできる、
そんな空間の存在そのものが、心の健康を支える大きな力になります。

LOVEのプログラムの素敵なところは、自然体で参加しているだけで、心の健康を支える大事な力が育っているという点です。
カナダのマギル大学で心理学を専門とし、子どものアドボカシーについてリサーチを行っているFranco A. Carnevale教授は、2018年に出した論文”Where vulnerability can become a strength: A focused ethnography of a community program for youth exposed to violence”で、LOVEのプログラムがメンタルヘルス・プロモーションのために重要とされる6つの要素をすべて満たしていると明記しています。
1. 経験と理解を深める
2. 前向きな感情を増やす
3.不安やストレスを減らす
4.自分や他人を傷つけるような行動を減らす
5.自分の気持ちや考えを整理できるようにする
6.人と関わるスキルや自己理解を深める
*カナダのCentre for Addiction and Mental Healthによってこれらの6つの要素が若者のメンタルヘルス・プロモーションに必要だと言われています。
これに加えて、LOVEは「安心して挑戦できる場所」「新しい人とつながる経験」「自分の声が社会に届く感覚」といった、心の土台を支える“コミュニティの中でのつながり”も大切にしています。

遊び心あるコーディネータのアプローチ、ユースの心の健康を維持、向上させることのできるLOVEプログラム。ユースたちの撮影したたくさんの素敵な写真たちが、プログラムへ参加する楽しさをまさに表現してくれていると感じます。
日本のユースにとっての可能性

日本の若者たちの中には、学校や家庭で何かしらのプレッシャーを感じ、「本音を出せる場所がない」と感じているユースも少なくありません。
As iZのプログラムは、そんな日本のユースに向けて、LOVEのカナダでの実践やトレーニングをもとに日本版へ調整したプログラムです。
とくに、感情を表に出すのが苦手だったり、口で話すのが得意じゃないユースにとって、写真や文章での表現はとても有効な手段です。
誰かと比べなくていい、頑張らなくてもいい、「ありのままの自分」を受け入れ、幸せに生きる力を育むこと——それが、カナダのLOVEプログラムを学んで、日本で展開していくAs iZのミッションです。
ぜひ多く方にLOVEとAs iZの活動について興味を持ってもらえたら幸いです!